平成16(2004)年 協会活動助成授賞報告
(社)日本小児保健協会
協会活動担当 理事 加藤 達夫
平成15(2003)年度より小児保健協会活動の一環として設けられた研究助成,実践活動助成,発達臨床研究賞が各選考委員会の審議を経て決定しま(告致します。
【研究助成】
平成16(2004)年9月10日に選考委員会(委員長 中村肇氏)が開催され、第50回小児保健学会の一般演題の中から、座長の推薦を受けた35題について慎重に審議した結果,堤ちはる両氏の演題に決定しました。(授賞対象者1名より辞退がありました。)
【実践活動助成】
平成16(2004)年9月13日に選考委員会(委員長 青木継氏)が開催され、各支部団体より応募のあった13団体の活動内容について審議した結果、石川県小児保健協会(兼松兼三氏)、栃木県小児保健協会(下泉秀夫氏)、山梨県小児保健協会(岡本まさ子氏)、に決定しました。
【発達臨床研究賞】
平成16(2004)年7月29日に選考委員会(委員長 青木継氏)が開催され、平成15年度の本協会機関誌『小児保健研究』に掲載された論文の中から、委員長が事前に推薦した7編を対象に審議し、荒木田美香子氏の論文に決定しました。
*なお、これらについては、理事会で承認され、第51回日本小児保健学会総会(岩手県盛岡市:平成16年10月29日)にて授賞式を行いました。
第1回 研究助成(1篇)
演題名(第50回小児保健学会 一般演題)
「乳児の栄養法と血中ヘモグロビン濃度に関する縦断的研究」
受賞者
堤 ちはる 氏(日本子ども家庭総合研究所母子保健研究部)、他
授賞理由:本研究は、沖縄県離島の乳幼児健診結果のなかで、乳児の栄養法と血中Hb値の関連を縦断的に分析したものである。沖縄県離島の乳幼児の身長、体重は全国平均の発育曲線にそうものであった。栄養方別にみた成績は、乳幼児健診1回目(5ヵ月)での母乳栄養児の占める割合は男児36.6%、女児53.7%と男児は女児に比し低いこと、また、乳児健診2回目の母乳栄養の男児、中でも第2子以後の男児ではHb値が有意に低いことを明らかにし、鉄を効率的に補給できる離乳食指導の必要性を指摘した。
(文責 中村 肇)
第2回 実践活動助成(3活動)
活動名・代表者
○「石川はしかゼロ作戦」/石川県小児保健協会(兼松 謙三 氏)
○「栃木県小児虐待防止ネットワークの活動」/栃木県小児保健協会(下泉 秀夫 氏)
○「ノースモーキングヘルシーキッド山梨―子どもたちをたばこの害から守ろう」/山梨県小児保健協会(岡本 まさ子 氏)
授賞理由:これらの活動は、いずれも医療・保健・行政・教育、さらには報道・NPO法人など関連機関・団体との密な連携のもとに、県内全域にわたり実践されており、かつ「健やか親子21」の趣旨に沿った内容となっています。また、それぞれの活動は、調査研究を背景に合理的に運営されており、独自の活動内容を含んでいることが評価されました。
「石川はしかゼロ作戦」は、報道機関やコンビニエンスストアまでも活用した徹底した啓発運動、県内大学における麻疹発生に迅速に対応し流行の拡大を防いだ実績など、活動の実効性は評価に値します。
「栃木県小児虐待防止ネットワークの活動」は、10年余にわたる息の長い活動を通じ形成された、きめ細やかなネットワーク、啓発・調査研究・教育研修などの活動プログラムの充実が評価されました。
「ノースモーキングヘルシーキッド山梨―子どもたちをたばこの害から守ろう」は、煙害知識の啓発のためのユニークな出前講座、教育関係者のための研修会、保育園・幼稚園・教育施設・公共施設などにおける地道な禁煙推進活動による屋内・敷地内禁煙施設の増加実績などが評価されました。
これらの活動は既に実績があり、その継続により一層の成果をあげられることが期待されます。
(文責:青木継稔)
第2回 発達臨床研究賞(1篇)
受賞
論文名:「中学生の精神的健康状態とその要因に関する検討 ― 第一報 3年間の縦断調査―」
論文執筆者:荒木田 美香子 氏(浜松医科大学医学部看護科/保健師・研究職),他
掲載巻号:『小児保健研究』第62巻6号 p.667-679 2003.
種類:研究
授賞理由:思春期は古くから「疾風怒涛の時代」と言われ,その心は子どもの心から大人の心へと再組織化される。そしてその再組織化は、彼らが生活する時代や社会の影響を強く受け、躓を生じやすい。思春期の子どもたちの精神的健康を考え、臨床活動を行うとき、その時代や社会を生きる子どもを見る目が要請される所以である。本論文は、中学生の精神的不健康や欠席行動の経年変化を把握し、それらの予測要因を検討しようとしたものである。この研究目的を明らかにするため、[1]幅広い文献検討を行って検討すべき要因を明確にし、[2]同一の中学生集団を対象に1年次、2年次、3年次と追跡した縦断的なパネル調査を実施し、[3]調査対象地区を比較的不登校の多い地区と不登校の報告がない地区に分け、調査対象者の条件統制に配慮したデータを得ている。さらに、こうした自他の研究データをもとに、[4]中学生の精神的健康状態を臨床的、小児保健的な観点から検討・実践する際に考慮すべき要因が指摘されている。本論文は、臨床現場で得られたデータに立脚するものではない。しかし、その調査データは、中学生の精神的健康状態に関連する重要な要因を多岐にわたって検討し、彼らの精神的健康を支援する条件が論じられており、思春期の子どもたちの発達臨床の実践に資する基礎的なデータとして評価することができる。
なお第二報(63巻2号掲載)では、この第一報で扱った対象から15例を抽出し、質的な分析を行っており、思春期の子どもをもつ家族支援に関する論考がなされていることを補足しておきたい。
(文責:青木継稔)